統合的なアプローチ
統合的アプローチについて
最近では日本でも「統合的な心理療法」「統合的アプローチ」という言葉をよく見るようになりました。
多様化するニーズや問題に対応するために、より柔軟でオーダーメイドなアプローチが求められるようになり、
そうした動きはこれからもっと活発になるでしょう。
ただし今の時点では、何をもって統合的というのか、共通の定義はなく、それぞれがバラバラな「統合」を詠っています。
そこで、私が考える「統合的」について、もう少し詳しい説明を試みたいと思います。
現在用いられている様々な心理療法は、その目標とするところ、目指すところの違いから、大雑把に2つに分けられるのではないかと思います。1つは、問題解決や症状の軽減を第1の目標とするもの、もう1つは精神的成長や人格の変容を目指しているものです。
心理学の第2勢力と第3勢力(第4も含む)で分けてもほぼ同じかもしれませんが、何を目指し何をセラピーの成功とするか、という違いに注目した方がわかりやすいと思うのです。
前者は、症状や問題が無くなるか、もしくは軽減することが目標とされ、治療・解決のための診断、分析、対処能力の向上、問題行動パターンの変化、自己観察とコントロール、日常生活のマネージメント、それらのための手法で成り立っています。
認知行動療法、マインドフルネス認知療法、解決志向ブリーフセラピー、弁証法的行動療法、そして、危機介入の手法や各種のトラウマ治療も含まれます。
これらは医療や教育や産業などの現場で使われ、基本的にエビデンスベースト(科学的根拠と実証に基づく)アプローチであることが求められます。
枠組みや進行が比較的ハッキリとし、マニュアル化でき、期間的な制約がある中で目に見えるわかりやすい効果をあげやすいアプローチが好まれます。
一方で、後者は人間の精神的成長や全体性の獲得を目指して開発された手法です。
こちらは、何をもってセラピーの「効果」とするのか、人の精神的成長をどう測るのかのかが難しく、エビデンスベーストになり難い領域です。科学的根拠や実証に乏しいので、なかなか社会的地位を獲得できません。
こちらは、目の前の問題解決や症状の軽減よりも、人それぞれの独自性、創造性の開拓を重視し、自己実現を目指します。
クライアントの潜在能力と自己成長力を大切にするため、セラピストはできるだけ不必要な介入を控え、クライアントのプロセスに従い、自らの気づきと「いまここ」の体験を促します。
ゲシュタルト療法、フォーカシング、ハコミセラピー、プロセスワーク(プロセス指向心理学)、などがその一部です。
前者は、問題解決や症状の軽減といった具体的な効果が望める一方で、自分らしさとは何か、どう生きていくか、といったことは不得手です。人格の変容は考慮しません。
例えばうつ病になると、まずは精神科や心療内科で薬物治療や認知行動療法をはじめるのが一般的ですが、医療現場で行うセラピーは、症状や問題行動の軽減を中心にしたセラピーです。ところがそれで良くならない場合があります。
そのような場合、その人にとっての症状は、自分の人生の棚卸しをするため、その調整期間のために一役買って場合があるのです。
そのような時には自己実現や自己成長のためのアプローチから、その人の人生全体を見渡す俯瞰的な視点が必要です。
その過程で、本人も意識しなかった恒常的な問題や過去のトラウマなどが浮上するかもしれません。
本当に必要な部分に焦点が当たらず、対処療法的なアプローチがされると人は無意識に治ることから抵抗します。
うつが再発したり、長引いて治りにくくなってしまう場合も少なくありません。
一方、後者は自己成長のプロセスを大切にし、問題や体験のすべてを気づきと成長の材料にすることは得意ですが、実際に向き合い解決する必要がある問題行動や悪循環に対して、具体的な介入がされず、現実的な問題が放置されることがあります。
自己探求や自己成長のワークは、充実感や幸福感が得られるものです。これらが、現実からの「回避」や「否認」のために都合良く使われている時があり、そうなると、かえってその人の成長を妨げてしまいます。
こうした時に、問題の焦点化や適切な対処が促されないと、何年やっても自己満足的なワークになりかねません。
私の中での統合的なアプローチとは、前者の問題解決的なアプローチと、後者の人間的成長を促すことに重きをおくアプローチの両方を、状況やプロセスに応じて適切に使うことです。
具体的で緊急性のある問題や症状がある時には、多くの場合、セラピーは前者の問題解決的なアプローチからはじまります。そして状態が落ちついたところで終結になる場合もありますが、徐々に後者の自己成長的なセラピーの方に移っていって継続される場合も多くあります。
具体的な問題や症状やキッカケがなく、もっと自分らしく生きたい、なんとなく先に希望が持てない、などの場合、後者の自己成長的な手法から入ることがありますが、プロセスを妨げているものに向き合う必要が生じることがしばしばあり、その時には現実的なことに対し問題解決的に取り組むことが、プロセスを促進させます。
統合的といって複数の手法を状況に合わせて用いるにしても、ただ複数を用いればよいのではなく、この分類の両方のアプローチを適所で用いることが大切だと私は考えています。
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